
物語の主人公は、著者と同名のマルチメディアクリエイター。
かつてデジタルコンテンツ界の寵児として脚光を浴びた主人公は、いまでは制作の現場を離れ管理職の任に甘んじていた。情熱も無く退屈なルーチン・ワークをやり過ごす日々。社内での地位や待遇は悪いものではないし、家庭や物質的なものにも恵まれていながら、しかし彼の精神は、瀕死の危機にあった。なにひとつ創作することもなく、その意欲の存在すらも確認できない彼の心は荒廃し始め、その在り処を求め夜の界隈を彷徨っていた。
そんな折「K」と名乗る若者から、純粋なファンメールが届くようになる。その手のメールには食傷している主人公だが、何か気になるものを感じ、途切れがちな文通が始まる。
薄暗い心を抱えたまま束の間の快楽と逃避を求め、酒と夜の彷徨を続けていた主人公は、遊び仲間の梁川といつも訪れる違法カジノバーで、女性バーテンダー《マリアンヌ》と出会う。独特の個性と品格を持つ彼女に魅力を感じ、惹かれていく彼。
いっぽう主人公には、以前から一風変わったナイトクラブのホステスである桐子という女性もいた。スピリチュアルな感覚を持った物静かな彼女は、片脚が義肢であるというハンディを持っていた。
二人の女性の間を身勝手に行き来し、ひととき癒されようとする主人公。
だが、かつての彼のクリエイションを知る業界内の視線、虚名と現実のギャップが次第に心を強く苛み、彼の魂はますます居場所を無くし、凋落していく。
そんなとき、東京での劣悪な生活環境を精算したというKが、運命の悪戯のように彼を頼って現われた。身勝手な振る舞いを疎ましく思う主人公だったが、美しい青年Kに自分と相通じる非凡なセンスと才能を見出したとき、その気持ちに変化が訪れる。
主人公は、Kにある仕事を依頼する。嬉々としてそれを受け入れるK。
それは、その後の二人の人生に、狂おしいほどの大きな変化をもたらす出来事の始まりとなっていく……。
無垢だが謎めいた言動の多いKは何者なのか?
Kの真意はどこにあるのか?
そして赤い部屋の秘密──本当に真紅の壁に囲まれた密室は存在したのか?
極限まで追い詰められた主人公の肉体と精神はどうなっていくのか?
どのようにして、ゲーム『クリムゾン・ルーム』が誕生したのか?
──その謎が、この物語によってすべて解き明かされる……。