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特別企画 N島リポート"

特別企画 N島リポート

第1回 女からの電話

date: 2008年01月15日 | text : N島 縦 |RSS

 どうも。 N島縦だ。

 1週間ほど前、俺の事務所の電話が鳴った。普段は起り得ない午前9時過ぎのことだ。
怪訝に思いつつ俺は黒い受話器をとった。受話器からは若い女性の鈴のような声がこぼれてきた。

「N島縦、さんでいらっしゃいますか?」その声が耳に心地よく、思わず頬が緩む。
だが限られた人間しか知らないこの番号をどうやって? いったい誰が何の用で?
ふっ。 まぁ、いい。 しばらくは鼓膜と脳細胞に美声の滋養を与えてやろう、と深々と椅子に腰を埋めた。静かに用件を尋ねる俺に、彼女は意外な名前を口にした。

「高木敏光」──。  それが、ことの始まりだ。

 どうやら、俺にとって絶後にして稀代の悪友・高木敏光の本が出るらしい。

 暫く奴から目を離しているうちに、何が起ったんだ? それもマルチメディア・クリエイターとしての本などではない。小説だという。それを女の麗しい声で伝えられた時、俺は思わずこう呟いた。 「なんでぇ、今ごろやっとかよ」。 正直な感想だった。 電話越しに女は笑っていた。

 奴の“ブンガク”については遠い昔、新人賞最終候補作を連発していた時代から知っていたし、俺を勝手に登場させたりしているここ数年のブログ小説も、暇にまかせて読み飛ばしていた……。 もともと若い頃の心積りでは、確か20歳くらいで鮮烈に作家デビュー、の予定ではなかったのか?

 が、奴は浮気をしていた。物凄いスピードで進化してきたデジタルコンテンツの場でモノをつくる、という行為に取憑かれた。 俺達が札幌と東京に離れ、交流を無くした頃から、ディレクターやフラッシュなるソフトの使い手として、知らない間に第一人者になっていたのだ。

 ……今思えば好きだったんだろうな、あの世界が。 確かに曖昧で不確かな人間の情念に支配された“文学”なんぞ、社会からはみ出した人間のする仕業だ。かのソフトを駆使してゲームやアニメーションを作って世間の連中を楽しませたほうが、よっぽど生産的かつ健全ていうもんだ。

 ……それがここにきての小説の出版とは……? 内容を聞いて見ると今回の小説は「CRIMSON ROOM」。 奴の名を世界に知らしめた密室からの脱出ゲームと同じタイトルで、高木敏光の名で登場するクリエーターが主人公なのだ、と。
 ……ふん。 そういうことか。

 奴は言いたいんだな。 「俺は文学を忘れた訳じゃないぜ」。 今までのクリエイター稼業は将来書かれるべき作品の肥やしだったんだよ、と。

「お願いというのは……」 電話の向こうの女は言った。
「N島さんに是非レポートをお願いしたいんですよ。実は高木さんは、あともう少しで最終稿が完成するっていうところにいて、執筆も最後の佳境なんです。 だから、高木さんの小説を応援するサイトを作って応援しよう、あたし達で盛り上げていこう、っていうことになったんです。 それで、N島さん。貴方に、高木さんが無事この小説を最終稿まで書き上げて、出版され単行本として世に出るまでを、リアルタイムでリポートしてもらいたいんです……」 彼女は一気に熱っぽく語った。

「……“あたし達”って誰だよ」
「『CRIMSON ROOM製作委員会』のみんなです。」

 はぁ? なんだそれは……。

「……で、なんで俺なわけ?」
「あたしが指名したんです。……この件については高木さんにもOKを貰いました。『N島は最近の俺を知らないから、かえってリポーターとしてはいいんでない?』と仰っていました。」

 確かにここしばらくは高木とは疎遠であった……。

「で“言い出しっぺ”のあたしが縦さんに承諾を頂く大役を務めることになったんです」

 電話口の向こうで彼女が晴れやかな笑顔をしているのが何故だか判った。 俺はポジティブな彼女の勢いに押されたのか、直感的に即答してしまった。

「……ふーん。 いいよ、面白そうだ。 引き受けた」
「やったぁ!」声が弾んでいた。
「だが君はいったい高木のなんなの? それに、俺の連絡先をどうやって?」
彼女はそれには答えず「ありがとうございます!・・それではサイトが完成しましたら、また連絡します。レポートはメールで送ってくださればこちらでサイトにUPしますので……!」
と何度も礼を言い、電話を切ってしまった。

 しばらく呆気にとられ受話器を握り締める俺だったが、そのうち口許が緩んだ。

 まぁ、いっか。 

 不思議な展開だったが、俺を動かす何かがあったのだ。

 こうして俺は、突如として“リポーター”なるものに、訳も分からずなっちまったという訳だ。

 ……とはいうものの……ところで、高木敏光って今どこにいるんだっけ?

 札幌? 東京?

つづく

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