クリムゾン・ルーム公式サイト CRIMSON ROOM

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特別企画 N島リポート"

特別企画 N島リポート

第2回 重い原稿

date: 2008年01月18日 | text : N島 縦 |RSS

 “鈴ボイス”の女性から電話を受けた翌日、遅い昼メシから戻ってみると、原稿の分厚い束が事務所に届いていた。 『物流工作250』の赤いロゴが入った袋の固まりを開封してみると、ずっしりと重い。片手では掴めないような分量だ。ワープロ打ちした後、PDFにしたものだろうか、A4に印刷されダブルクリップで3束に分けて綴じられていた。

 一緒に薄紅色の封筒が入っており、こちらは上等な和紙の便箋に記された“鈴”からの手紙だった。

 丁寧な挨拶とお礼、そしてリポートの為には当然なのだが“……まずは、作品をたっぷりご賞味、ご堪能してください……”とのことが綺麗な手書きの文字で書かれていた。最後は“『クリムゾン・ルーム制作委員会』広報担当・I川今日子” という署名で終わっていた……。

「今日子」ってのか、名前は。 昨日、彼女の声を聴いて俺の頭が勝手に想像した女性像が、顔・髪型・ファッション、スタイルを含め出来上がっていたのだが、名前と筆跡、文体から受けた印象で、かなりの修正が加わった。「高木さんの講演に来て、ファンになりましたぁ!」という『クリエイター・高木ミーハー』みたいな“お子様”を想像していたのだが、どうも、ずっと大人びているようだ。

 手紙の内容も、“ビジネスマナーの文例かくあるべし”という完璧さと同時に、女性らしい柔らかさを備え、かなりの職業的経験に裏打ちされていると見た。

 ……うーん、できりゃあ是非いちどお会いして、じーっくりと打合わせをしたほうがいいなぁ、……と、俺は目の前の作品そっちのけで勝手に妄想が膨らんでいたのである。

 ふと目を落として原稿を見た。正直、気が重くなった。昨日はうっかり安請け合いしちまったが、考えてみりゃ結構、面倒だな。

 重なった原稿の束の厚みはデスクから5センチ近くはある。 いったい何枚あるんだ? 表紙にはタイトル『クリムゾン・ルーム』と書かれ、左隅に日付と“計858枚”と小さく記されている。これは400字詰原稿用紙に換算した場合を言ってるんだろう。

 ううう。 思わずさっき食べた豚骨ラーメンがゲップと共にせり上がってきた。
高木が、筆が早く原稿を量産できるタイプの書き手なのは知っている。 が、こりゃいくらなんでも書き過ぎだ。ハードカバーにすると概ね500ページは下らないだろう。
 新人作家のそんな分厚い本が売れるのだろうか?ケータイで読める軽い小説が人気になって売れるような時代に……。

 しかも俺は、 以前“請け負い”で仕事をしていた会社の業務全般を、とある事情により『社長代行』として引き継ぐことになり、もともと個人でやっていたビジネスと跨って、連日明け方まで大変に忙しい毎日を送っているんだゼ。 それとさぁ、そうそう。俺へのギャラはどうなっているんだ? リポーターって言ったってまさか無償ボランティアってこたあ無えよなぁ……。またしても女がらみで俺はハマッたのか?

 俺は小説を賞味する前から食傷気味になり、とりあえず原稿の束をデスクからどけた。デスク横のキャビネット上、雑多なモノ達で溢れかえっている中を肘でざっと掻き分け、どさりと置き去ると、夜の渉外に出かけていったのだった。

つづく

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