クリムゾン・ルーム公式サイト CRIMSON ROOM

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特別企画 N島リポート"

特別企画 N島リポート

第8回 生産と流通

date: 2008年02月08日 | text : N島 縦 |RSS

午前5時、ピリピリした空気を頬に感じながら、事務所に帰還した。
今冬の寒さはコタえるが、少しづつ夜明けが早くなっているのも確かだ。季節は動いている。

バッグの中から業界誌「編集会議」が顔を覗かせた。
そうだ。忘れてたゼ。
I川今日子から「『クリムゾン・ルーム』のことが載ったんですよー」とのメッセージが事務所に留守電に入っていたので、閉店直前の紀伊国屋で買ったんだったな。
前社長の置き土産である趣味の悪い革張の応接用ソファに腰をおろし、かじかんだ手で雑誌を開いた……。

高木敏光と1年ぶりの再会を果たした例の晩は、赤坂で2時間ばかり過ごし、別れた。
大事な商談もあり、俺は新宿に戻らねばならなかったのだ。
ホテルに程近いカジュアルなアイリッシュ・パブで、エージェントのY内女史も同伴し、杯をあげた。
Y内女史の所属する会社は、日本における作家エージェント業のパイオニア的存在で、いまや飛ぶ鳥を落とす勢いで、出版界に地位を築いている最中だ。
知性美が漂う彼女から聴けた業界の裏話は、なるほど頷くことが多く
「なぜもっと早くに日本にこの業態が根付かなかったのか?」
との思いを強く持った。
聞けば同社代表のO塚氏は、高木や俺と同い歳。
「すんげえ、いいキャラなんだよ。一緒にいるとハッピーになる。しかもバリバリのやり手でな」とは高木の弁。

ふむ。
考えてみりゃあ、俺N島の経歴は、極めて‘エージェント’的な仕事ばかりであった。
いまの数々の代行業務、様々のトラブル解決請負い、以前やっていたコンサル業、省庁の補助金・助成金書類の作成から、営業代行、企業や商品のパンフ作成、社内SEの派遣から始まった人材バンクビジネス……。
どれもが、限りなくエージェント(代理人)的である。
すると高木が俺を揶揄する。
「というか、おまえ、少しは自分でモノつくる仕事しろよ」
「また、それかよ」
「言っておくが、Y内さんとこは違うゾ。本作りに企画段階からがっぷり組んでる。そこから書籍が生まれる、と言ってもいいくらいだ。だけどおまえのは‘右から左に流してる’だけじゃないか」
「なに言ってやがる、俺も、生み出してるんだぜ」
俺は反論した。
「欲しい人に欲しいサービスを提供し、満足を生み出す。立派な生産じゃねえか」
「いや、おまえのやりかたは単なるブローカーだよ」
「ちっちっ」
俺は人差し指を振った。
「俺はな、どんな商売の場面でも自分なりのアレンジを加え、客がより嬉しがるよーに、やってさしあげるんだ。債権の集金にしたって、本当はすんなり取ったものを『逃げようとしたんで、必死で追いかけてやっと半分とれました』とクライアントに説明して、わざわざ2回に分けて、持っていく。すると感謝されるんだ。観光客にウチの店を案内するときも『にいさん、ラッキーですねぇ。ウチは7割が10代のコばっかです。先週は4人も現役の女子高生が入ったんですよ。これ、ホント。……いや、外じゃ絶対言わないでくださいよ、摘発されちゃいますから』って言うんだ。本当は店の女は、3割がバツイチで20代後半までいるんだけど。でな、そのコ達にもとにかく『客には、いい夢を見させろ』って、そーいう教育を施してるんだよ」
「そりゃ、単なる大嘘つきだろう?」
「小説書きに、そんなこと、言われたかねえなぁ。これは、言ってみれば創造的脚色だぜ」
「どこがだよ」
「おまえだって、より面白くしようと、2回も3回も書き直してたんだろ? 俺のやってるのは、例えば本をドラマ化するとき、もっと視聴者を楽しませるためにアクションシーンを追加するようなもんだよ」
「おまえに創作論を聞かされるとは思わなかった」
Y内女史はクールな微笑を湛えつつも、珍しいモノを見るように好奇の視線を俺達に注いでいた……。

……雑誌をテーブルに放り出し、俺は大きく伸びをした。
なんでぇ。これっぽっちの記事か。
もっとページ見開きで特集とか、よお……(笑)。
だが、この編集長は、たいした人物だな。
本や著者に愛情があるだけでなく、ビジネスのツボを知っている切れ者のようだ。
この人の次回作が「クリムゾン・ルーム」だ、という記事の終わり方は、期待感をソソるな。
思えば、俺のおふくろや元妻が、よくサンマーク出版の本を読んでいた気がする。
ココから高木の‘小説’が出る、というのが面白い。
過去の先入観を覆す、新しい試みだ。

俺は高木敏光に、小説のモデルや、既存のあり方や、本や創作を取り巻く価値観を壊し、変えていくような、そんなことを期待している。

つづく

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