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特別企画 N島リポート"

特別企画 N島リポート

第13回 作家養成ゼミ潜入記3、そして本は誕生する

date: 2008年02月26日 | text : N島 縦 |RSS

ゼミが、ようやく終わった。
俺は、E垣さんと隣の美女のところへ急いだ。
「タテさん、こんばんは」
「ああ。E垣さん、その節は世話になったね」
「いーえ。WEBのことなら、なんでもお任せください」
「と、ところで隣の方は……?」
「あ。紹介しますね。こちらはK栗サン。高木さんの昔からのファンで、本業はネイルアーティストなんですよ。最近は執筆の手伝いなんかをやってくれていて……」
「そりゃあ、どうも」
彼女はにっこり笑って軽く会釈する。

………やはり、違った。
俺は、失望と同時に何故か軽い安堵を感じていた。
妄想像のI川今日子と、イメージギャップを抱いていたせいだろうか……。
が、それにしてもK栗サンが色気たっぷりの美人であることには、間違いない。
「N島さんは、2次会行かれます?……よね?」
「ん?……ああ。も、もちろん、もちろん!」
吸い込まれそうな黒い瞳である。

いつもゼミの終了後、‘2次会’と称する宴があるらしく、一同はカフェを出て三々五々、ぞろぞろと移動を始めていた。俺は‘舎弟3号’のトモキに携帯電話を入れ、戻れないことと、引き続いての業務指示を与えた。
「えー!マジっすか!?……オレ彼女待たせてるんスよう」
「大丈夫だ。どうせ、ちゃんと他に遊ぶ男はいるから」

派手なネオンの光に白い息を撒き散らしながらゼミ一行は、サンシャイン通りに面する大衆居酒屋に吸い込まれた。
部屋の構造上、4つのテーブルに別れて座ることになった。
俺が案内されたテーブルには、高木敏光とE垣さん、Y内女史、K栗サン、高木とゼミ同期生である未来の作家氏2名、そして書店リブロの大物・石川部長だ。

石川部長はどうやら作家養成ゼミのリブロ側の代表責任者であり、さっきまでのゼミの席上でも、要所で読者目線に立った書店サイドからの鋭い提言を発していた。
長身で一糸の乱れもないスーツの着こなし、オールバックに黒い縁眼鏡の石川氏は、良い意味で書店の人間らしくなく、まるでウォール街をアタッシュケースで颯爽と闊歩する金融マン、といった風情だった。だがエリート然としたその風貌に似合わず、人当たりと気配りは抜群な人なのである。
「いやあ、僕は『クリムゾン・ルーム』にとても期待しているんですよ」
石川部長はビールを注いでくれながら、溌剌とした笑みで、そう語った。
この席上では俺とK栗サンが新顔らしく、ひととおり自己紹介と挨拶が行われる。
便宜上、俺は株式会社タカギズムのスタッフということで紹介された。
当然ながら皆(特に男)の視線はK栗さんに集中していた。
石川部長が感心したように言った。
「タカギズムってすごく発展してますね。どんどん人が増えていますねぇ」

アルコールが皆の血流を早め、1次会(ゼミ)にもまして、本や出版の話題に熱く花が咲いていた。
本というもの魅せられ、魂と情熱を注ぐ仕事人たち……
俺にとっては、歌舞伎町で暮らす日常とはまったく異質な、新鮮な時間だった。

高木敏光は人気者で、いろんな人間と話しておりなかなか話すチャンスがない。

「美味しく飲んでますか?N島さん」
皆の杯を気遣いビールやら焼酎やらをオーダーしていたアップルシードの‘ニキータ’ことY内女史が話しかけてくれた。
「お。ありがと。……ところで、サ」
「はい」
「そもそも、どんな経緯で高木のエージェントをやることになったんだい?」
「……はい。それは、ですね」
Y内女史は、しばし手を休めて答えてくれた。

経緯は、要約すると次のようなものだった。
常に面白いネタ、本になりそうな企画にアンテナを張り巡らせているY内女史の耳にネット上の『ササイのことで思い出した』の噂が飛びこんだ。当事、小説ブログとして高い人気と評価を得ていたのである。
内容の面白さに目を留め、高木敏光にアクセス。高木からアップルシード・エージェンシー宛にPDF原稿が郵送される。
アップルシード社の社外委員でもあるN氏──この人は某有名文芸誌の編集長を務めていた業界でも高名な人である──が、『ササイ〜』を絶賛。
そして札幌から出張中の高木と、Y内女史にO塚社長を伴ったアップルシード社が、初の顔合わせ。これが2007年の6月のことである。O塚社長が高木と同年生まれということもあり、映画やロックミュージック等の雑談を含め、会談は大いに盛り上がる。
そして高木が創っていたデジタル・コンテンツの到達点のひとつであるゲーム『クリムゾン・ルーム』と、その小説の話になったとき、O塚氏の頭がスパークした。
「よし、それで行こう!」
さっそく翌日には、アップルシード社より小説『クリムゾン・ルーム』の企画が各出版社に持ち込まれた。中でも電光石火の勢いで反応したのがサンマーク出版だった。高木は札幌に戻る便をキャンセルしY内女史と一緒に同社の高橋編集長に会うことになった。
他にも大手出版社が3、4社ほど名乗りをあげたが、高橋氏のラブコールと熱意もあって、最終的にサンマーク出版から本を出すことを決定した……。
そんなところである。

Y内女史は、忙しい身ながらゆっくりと丁寧に話してくれた。
優しい女性である。
斜め横ではK栗サンが未来のベストセラー作家達と何やら楽しそうに話している。
色白の肌がほんのりと桜色に染まっている。

……いやあ、それにしてもこのリポートに関わるようになってから、ずいぶんと美女に会うなぁ。
出版界って、そういうトコなのか?
それとも高木の周囲が、特別そうなっているのか!?

つづく

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